人は生きていくうえで必ず「痛み」というものを経験するものです。
この「痛み」ですが、”耐え難い痛み”から”気にならない痛み”と痛み一つとってもとても幅が広いものです。
それは「痛み」客観的に判断できるものではなく、主観的な訴えになるためです。
同じような刺激を数人に与えても痛みを強く訴える人もいればそうでない人もいます。
このように痛みとは捉えづらいものなのです。
そんな「痛み」ですが、近年世間でもよく取り上げられるようになってきています。
世間で言われている「痛み」とは、主に「慢性疼痛」となります。
ごく最近でいえば、元フジテレビ八木亜希子アナウンサーが発症した線維筋痛症のニュースがありますね。
このように、原因のはっきりしない慢性的な痛みというものは意外と多いもので、これからより多く認知されてくる問題ではないかと思います。
今回は、このような慢性的な疼痛に対して治療効果を挙げるトリガーポイントと、難治性で課題の多い線維筋痛症の関係性とトリガーポイントの治療効果について検討していきました。
トリガーポイントについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
まず線維筋痛症とは何なのか?
線維筋痛症とは、全身的慢性疼痛疾患であり、全身に激しい痛みが起こる病気です。
線維筋痛症はガイドラインも作成されており、年々知名度が高くなっている疾患の一つです。
ガイドラインについてはこちらをご覧ください。
線維筋痛症とはどんな疾患?
線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は身体の広範な部位に原因不明の慢性疼痛と全身性のこわばりを主徴候とし、随伴症状として多彩な身体、神経・精神症状を伴い、いずれの徴候も慢性疼痛と同様に身体診察や一般的画像検査を含む臨床検査で症状を説明できる異常を見出せないことより、機能性身体症候群(FSS)に属する特異なリウマチ性疾患であり、中年女性に好発し、自殺を除いて生命予後には問題はないが、QOL・ADLは著しく悪い。
わが国の有病率は欧米のこれまでの報告と同様に人口の 1.7~2.1%と比較的頻度の高い疾患である。
一方、FM の疼痛は侵害受容性の痛みでなく、病巣が特定されない神経障害性様の中枢性疼痛とされており、いわゆる疼痛の中枢性感作が成立し、中枢感作症候群(central sensitization syndrome:CSS)の一つである。
これら病態は相互に併存しやすい特徴もある。
また、最近の病因・病態に関する研究の進歩を背景に、脳内ミクログリア活性化症候群の一つとして、脳内神経炎症(neuroinflammation)による病態であるとの報告もある。
今後の研究の進歩により、FM の疾患概念は大きく変貌する可能性がある。
線維筋痛症診療ガイドラインより抜粋
ガイドラインの内容を抜粋していますが、線維筋痛症の痛みは何か刺激が入ったら痛みが誘発されるもの(侵害受容性)ではなく、神経系の問題であるとされています。
神経系の痛みではガイドラインでも言われていますが、「感作」が大きく関わってきます。
繰り返しの不快な刺激などが入力されると痛くないのに痛みとして捉えてしまうといった現象が起こってきます。
感作について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
線維筋痛症の症状
線維筋痛症の症状は、全身もしくは身体の広範囲が痛み、またある部分だけが痛むことがあるなど単に痛み症状があるわけでなく、痛みの症状が多岐に渡ります。
その痛みは軽度のものから激痛まであり、耐え難い痛みであることが多いです。
痛みの部位が移動したり、天候によって痛みの強さが変わったりすることもあります。
痛みが強いと日常生活に支障をきたすことが多く、重症化すると、軽微の刺激(爪や髪への刺激、温度・湿度の変化、音など)で激痛がはしり、自力での生活は困難になります。
随伴症状として、こわばり感、倦怠感、疲労感、睡眠障害、抑うつ、自律神経失調、頭痛、過敏性腸炎、微熱、ドライアイ、記憶障害、集中力欠如、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)などが伴う事もあり、症状は個人差があります。
線維筋痛症と死亡率
死に至る病ではありません。
線維筋痛症の性差・年齢分布
線維筋痛症は男性よりも女性に多く、中高年の方に多い病気です。
そのため自律神経失調症や更年期障害、不定愁訴などど他の病気と診断されることも少なくありません。
現在人口の1.66%、約200万人の患者がいるのではないかと疫学的に発表されています。
2003 年厚生労働省研究班の全国疫学調査では、男女比 1:4.8 であり、調査時平均年齢は 51.5±16.9 (11-84)歳、推定発症年齢は 43.8±16.3 (11-77)歳であった。
また、調査時の年齢分布は 50 歳代にピークがある正規分布を呈している。2011 年のインターネット調査(対象 138,000 人、20 歳以上、回答者 20,407 人)では男女比 1:1.6、調査時平均年齢は 45.2±13.5 歳であった。一方、職域集団(医療従事者)の調査では、男女比1:4 である。欧米(男女比 1:8-9)の報告に比して男性の比率が高いことや、調査間の大きな差異の理由は不明である。
線維筋痛症診療ガイドラインより抜粋
線維筋痛症の診断方法
現段階では1990年に発表されたアメリカリウマチ学会の分類基準を参考にしています。
全身に18箇所の圧痛点があり、4kgの力で押し11箇所以上痛く、また広範囲の痛みが3ヶ月続いていることが条件です。
11箇所以上でなくても専門医の判断で線維筋痛症と診断されることもあります。他の病気があっても線維筋痛症の診断は妨げられません。
線維筋痛症についてもう少し詳しく知りたいと思ったらこちらの記事をご覧ください。
線維筋痛症の病態と診断方法から治療法までわかりやすくまとめられています。
「線維筋痛症」と「筋筋膜性疼痛」の見分け方
トリガーポイントが線維筋痛症の原因となるのか、あるいは逆に線維筋痛症がトリガーポイントの原因になるのか、の議論についてはいくつか疑問点がありますが、おそらくこの2つの症状には全くつながりはないとされています。
しかし、一つ確かなのは線維筋痛症は、トリガーポイントが散見される状態(筋筋膜性疼痛)と同時に発症する可能性があるということです。
以下に、線維筋痛症と筋筋膜性疼痛の特徴を述べます。
線維筋痛症の疼痛は筋筋膜性疼痛と比べ非常に強く全身性である
筋筋膜性疼痛も線維筋痛症も身体の各部に過敏部位が存在するのが特徴です。
線維筋痛症の場合、この部位を「テンダ―ポイント」と呼びます
【筋筋膜性疼痛】
・通常、局所的なものでトリガーポイントが原因だと特定できる。
※ただし、トリガーポイントの痛みは広範囲に及ぶため、原因となる場所を隠してしまう
・痛む部位は大体の場合、指で押ればわかる。
【線維筋痛症】
・線維筋痛症の患者は往々にして全身に痛みを感じており、少し触れられただけでも耐えられないほど苦しむ。
・典型的なテンダ―ポイントは、筋に限らず身体のあらゆる場所に存在する。
※線維筋痛症の原因は、筋などの特定組織ではなく、全身的なものだと考えられており、通常は身体全体に症状が現れる
線維筋痛症の患者の筋は柔らかく、緩んでいる
線維筋痛症と筋筋膜性疼痛の大きな違いとして、以下のことが挙げられます。
”トリガーポイントの存在する筋は硬いが、線維筋痛症の患者の筋は柔らかく、緩んでいる”
通常、筋にトリガーポイントが形成されると関節が硬くなり、可動範囲が制限されます。
それに対して、線維筋痛症の場合は、関節は緩くなり、過剰に動くようにさえなります。
ただし、患者の自覚症状として関節の硬化があり、持続性の痛みのため運動を避けるようになるため結果的には緩んでいるというより動きにくいという訴えが多くなってくる。
また、抑うつ状態は双方に共通した症状ですが、
一般的に筋膜痛は生活と共存できることが多いのに対し、
線維筋痛症の患者は深刻な疲労に陥り、時には動くたびに地獄の痛みを感じなければいけない状態になります。
トリガーポイントの治療は線維筋痛症に対して効果はある?
この参考書で紹介されているセルフトリートメントは、いずれも線維筋痛症それ自体に直接的な効果はないとされています。
しかし、テンダ―ポイントの付近に存在していると思われるトリガーポイントをマッサージすることが無駄ではなく、線維筋痛症の患者の痛みを軽減することができるともいわれています。(過剰な治療を注意深く避けるためにも有効である)
痛みの原因は筋膜のトリガーポイントであるにもかかわらず、線維筋痛症だと誤診された患者も少なくないようで、そのような患者に対してはトリガーポイントのマッサージは「線維筋痛症」と称された症状に対して大きな効果を発揮するとされています。
要するに、「線維筋痛症に対してはトリガーポイント療法は直接的な効果は及ぼさないが、トリガーポイントが原因で生じた線維筋痛症のような症状には効果がある」ということになります。
まとめ
今回は線維筋痛症とトリガーポイントの関係性についてまとめていきました。
私自身、線維筋痛症の患者さんと関わる機会はそう多くはないため、線維筋痛症の症状については詳しくないのが現状です。
しかし、これまで線維筋痛症をはじめ多くの慢性疼痛患者さんと関わる機会があり、症状の訴え方や心理的な問題などは傾向としてわかってきます。
トリガーポイントの治療自体も直接的な効果がないと言われていますが、筋筋膜性疼痛なのかどうかのスクリーニングにもなるため一つの選択肢として利用する価値はありそうですね。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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