胸郭出口症候群によって左手が動かなくなった症例~小胸筋への介入が有効であった例~

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症例検討
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どうも。

KABOSUです。

 

今回は、

胸郭出口症候群を呈した症例について

書いていきます。

 

胸郭出口症候群は、手の痺れや痛みを引き起こし頸部疾患と誤診されていることもあります。

臨床では、手の痺れや痛みがある方に対し、首からきている症状と思って頸部への評価を行っても反応がないことが多々あります。

そんな時は、この胸郭出口症候群が関連していることがあります。

 

今回の症例も同様に、頸椎の障害で病名がついていましたが実際は胸郭出口の問題が強く、そこに対して介入することで手の症状が改善され、ADL改善を認めました。

 

上記のように改善したプロセスを記事にまとめていきたいと思います。

 

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1.胸郭出口症候群って?

胸郭出口症候群は、頸部から上肢にかけて疼痛や痺れ、だるさといった上肢の症状や手指の血管運動障害などを呈する絞扼性神経障害です。

 

胸郭出口症候群の病態ですが、主に神経や血管の絞扼が原因です。

絞扼されるポイントは3つあります。

●斜角筋隙

●肋鎖間隙

●小胸筋下間隙

上記の3つが胸郭出口症候群の絞扼ポイントになります。

 

胸郭出口症候群には、3つの病態があります。

●血管性胸郭出口症候群

●神経性胸郭出口症候群

●混合性胸郭出口症候群

この中で、血管性胸郭出口症候群の割合は少なく、大半が神経性胸郭出口症候群であると言われています。

 

 

2.症例紹介

●30歳代女性

●仕事は事務仕事(残業が多く、周期的に多忙な時期が来る)

●痩せ型

●シングルマザー(子供は一人)

●子育てと仕事で常にストレスが溜まっている

●運動習慣はなし

●消化器系の不調で胃薬を常備している

≪現病歴≫

朝、目が覚めたら突然左手が動かなくなっており、慌てて病院へ。

脳梗塞などを疑ったが、脳の問題ではなく診断は橈骨神経麻痺と診断される。

その後、服薬にて様子を見るも症状変化なく数週間してからリハビリ開始となる。

来院時の表情は非常に暗く、会話の節々に悲観的な発言聞かれる。

 

 

3.身体機能評価

疼痛

●圧痛は、全身至る所にあり全身的な筋緊張亢進が確認された

●左手に関しては、大胸筋、腕橈骨筋などに強い圧痛あり

●左手母指に関しては、触れるだけで痛みが出現していた

左手掌の血色は悪く、常に冷感があるとのこと

 

可動域

●左上肢に関しては全体的に可動域制限認めており、肩の挙上制限も認めていた

 

筋力

●左上肢の粗大筋力は3レベル(痛みと重だるさで出力低下認める)

●腕橈骨筋はMMT2レベル、母指の屈筋や外転筋などは1レベル、上腕二頭筋は2レベル

 

感覚

●シビレなどの異常感覚が橈骨神経領域に認められる

 

姿勢評価

●頭部前方位姿勢をとっている(顎が突き出ている)

●胸椎後弯(猫背)

●骨盤後傾位

●下肢(内旋傾向)

胸郭出口症候群の原因に姿勢が関わっている可能性あり

胸郭出口症候群と姿勢の関係性についてはこちらの記事にまとめています。

胸郭出口症候群に対する理学療法について~絞扼部位や姿勢との関係性~

 

整形外科的テスト

アドソンテスト(Adson’s test)は、橈骨動脈の消失は認めず、陰性と判断

ライトテスト(Wright test)は、痛みのない範囲で動かしたため正確な検査肢位までは言っていないが、それでも橈骨動脈の拍動が消失したため、陽性と判断

※ライトテストでは本人も違和感の訴えがあり(血の気が引く感じがするなど)、神経の圧迫とともに鎖骨下動脈の圧迫も起こっていることが予想された

小胸筋下間隙での胸郭出口症候群が疑われる

胸郭出口症候群に対する整形外科的テストについてはこちらをご覧ください。

胸郭出口症候群に対する整形外科的テストの一覧と評価の方法

 

 

4.問題点の解釈

介入時に、上記に挙がった評価以外にもいくつか行いましたが、本当に手以外にも問題が多すぎる方でした。

慢性的な腰痛、胃痛、肩こり、頭痛、足趾の痛み、膝の痛みなどなど・・・

30歳代なのに、なんでそんなに身体に不調があるのか?って思うくらい異常をきたしていました。

話を聞けば、生活習慣や仕事の多忙さなどなど身体を壊してしまう要因はたくさんあり、そのストレスが許容範囲を超えて結果として手が動かなくなったものと判断しました。

 

手の冷感や痛みの出方から、CRPS(複合性局所疼痛症候群)ではないかとも考えました。

そのため、介入は出来るだけ慎重に行うようにしました。

 

 

上記の評価結果をまとめると、

異常姿勢により、頸椎にストレスがかかり画像診断にて頸椎疾患が疑われたものと考えました。そして、介入すべきは「胸郭」であり、身体的ストレスの軽減が症状の改善に最適ではないかと推察しました。

 

胸椎の後弯により大胸筋や小胸筋は緊張し、そこから胸郭出口症候群を引き起こし手の神経障害を引き起こしたものと考えました。

 

 

5.胸郭出口症候群の治療アプローチ

ここからは、実際に行った治療アプローチについてまとめます。

介入当初は手の痛みが強すぎたたため、直接手への介入は控えて肩周囲から動きを出していくようにしていきました。

併せて、呼吸指導や生活指導など、自律神経系の問題に対して指導を行っていきました。

手の痛みの軽減に合わせて実生活に即した手の運動を導入していきました。

 

下記に詳細なアプローチ内容を記載します。

①呼吸指導

呼吸のパターンをチェックし、胸式呼吸から腹式呼吸へ。

症例は常に胸式呼吸優位で肩の挙上が確認されていました。

 

②小胸筋のリリース

症例の小胸筋にはしこりのような塊がありました。

小胸筋のトリガーポイントが形成されておりディープストロークマッサージにて改善を図りました。

始めはかなりの痛みを訴えられたので、軽いリリースから開始し、徐々に深部までリリースをしていきました。

外来で治療に来るたびに小胸筋のリリースを行っていましたが、毎回リリース後に左母指に血が通うようになった感じがすると言われており、手掌の血色も改善していました。

 

③肩甲下筋・棘下筋・棘上筋のリリース

症例は、肩の挙上制限もきたしていました。

始めは橈骨神経麻痺による影響(筋出力低下)かと思っていましたが、手が動き始めても肩の可動域制限を認めていたため、肩関節周囲炎のような症状も呈していると考え、介入しました。

痛みのパターンも、肩外側に見られており肩関節周囲炎でよく訴えの聞かれるポイントでした。

 

痛みに対しては、棘下筋や棘上筋をリリースし改善を図りました。

実際に、棘下筋のリリースで肩外側に放散痛を認めており、棘下筋のトリガーポイントが形成されていたことがわかります。

 

棘上筋・棘下筋のトリガーポイントについてはこちらをご覧ください。

肩関節周囲炎の”しつこい痛み”に関連のある筋について

 

 

可動域制限に対しては、肩甲下筋のリリースを行い改善を図りました。

症例は、猫背で一言でいえば”巻き肩”となっていました。

つまり、肩は内旋位になっていたということです。

このことから、内旋筋である肩甲下筋は短縮していることが考えられます。

そこで、肩甲下筋のリリースを行い、肩の自由度を高め可動域改善を図りました。

 

肩甲下筋のトリガーポイントについてはこちらの記事をご覧ください。

肩関節周囲炎の可動域制限~この筋肉をチェックしよう~

 

④自主トレーニング

手への介入は患者自身で行ってもらうようにしました。

理由は「無駄な過緊張を引き起こすリスクを減らすため」です。

痛みや痺れなどが継続して左手周囲は異常感覚を起こしていることが予想されました。

そのため、刺激に過剰に反応することが考えられたため、自分自身で触ることでその刺激量をコントロールしてもらうようにしました。

自分でマッサージするとあんまり気持ちよくはないけど不信感も感じないですよね?

逆に、他人からマッサージされると気持ちいけど、なんか嫌な刺激が入るとそれ以降、違和感を感じやすくなりますよね?

このように、”違和感”を極力減らすために患者自身で行う自主トレーニングを選択しました。

 

痛みに対するリスクに関してはこちらの記事をご覧ください。

痛みを我慢してリハビリするのはいい?悪い?~”感作”のことを理解しよう~

 

内容は、腕橈骨筋のマッサージと手掌のマッサージとしました。

具体的な指示は入れずにとにかくイタ気持ちい程度にマッサージしてくださいと指示しました。

腕橈骨筋はかなり筋緊張が高かったので時間があればほぐしてもらうようにしました。

 

 

以上の内容で介入していきました。

※上記以外にもたくさんの治療を行ってきましたが、主に時間をかけて行って部分のみまとめています。

 

 

6.治療経過

治療開始から数回経過したあたりから、左手の動きが出始めるようになり回復の兆しが見え始めました。(外来の頻度は週2回でした)

開始一か月ほどで握力の測定が可能(5.0㎏を超えた)になり、少しづつ出力が高まってきました。

表情も少しづつよくなってきており、青黒かった顔の血色(循環の悪そうな顔色)も少しづつですが改善を示していました。

開始から3か月ほどで握力の左右差が無くなってきました。

 

その後は、仕事にも復帰することができましたが、やはり多忙な時期になると症状が増悪する傾向にありその都度外来にて対応するといったことがありました。

 

このことからもやはりストレスとの関連性は高いものと再認識しました。

 

症状が落ち着いてからは、疼痛のコントロール(疼痛管理)を自身で行うために、自身でケアする方法などの指導中心に介入方法をシフトしていき、リハ終了となりました。

 

 

7.まとめ

今回は、胸郭出口症候群について症例をまとめていきました。

これまでも胸郭出口症候群らしき症状の方は多く見ても、今回のように整形外科的テストが陽性になり、実際にアプローチすることで大きく改善した例は初めてでした。

 

問題点を限局するためには様々な評価を用いる必要があり、逆に評価が上手くいくことで症状の改善が早くなることを感じた症例でした。

 

セラピストの多くは、「色々触ってたら良くなって、結局のところ何がその人に効果があったのかがわからなかった。けど治ったからいいか!」というケースを経験することが多いと思います。

ここで「なんで良くなったか?」を追求していくことも自身のレベルアップのためには重要になると思います。

よくわかってないのにわかっている素振りを見せるのも悪いですが、分からないことをほったらかしにするのも良くないですから何か学びを得たらそれを追求していくようにしていきたいですね。

 

それでは本日はこの辺で。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!!

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