変形性股関節症(以下、股OA)は、股関節の変形により疼痛・歩行障害など日常生活における様々な弊害をきたす疾患です。
そんな股OAですが、関節の異常は徐々に進行し、最終的には人工の股関節に入れ替える手術が推奨されます。
股関節に対して人工関節を入れる手術のことを「人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)」と言います。
皆さんも、いくら足が痛かろうが簡単には「手術」という選択をしたくないですよね?
「出来るならば・・・したくない」
そんな心情であると思います。
私自身も出来るならば手術はしたくありません。
術後の患者さんを多く見ていますが、
元々あった自分の関節が全く別のものに入れ替わるわけですから中々受け入れが出来るものではありません。
そんな中、股OAの進行予防に対して興味深い文献を見つけました。
気になる文献はこちらです。
この文献では、
股OAの進行に関与する因子としては、
●股関節の機能障害(股関節の可動域制限・股関節の筋力低下)
よりも、
○脊柱の柔軟性低下
○立位時の脊柱の前傾変位
が”股OAの進行に関与している”と結論付けられました。
・・・てことは、
脊柱の柔軟性や立位時のアライメントを意識して修正していれば、股関節の変形に悩まされることが無くなるのではないか!?
ということになります。
これは、特に股関節の痛みや違和感がない方でも取り組んでおけば、将来の股OAを予防できるかもしれないってことです!
今回はそういった、股OAの進行予防をするために必要な知識と実践方法を紹介していきます。
1.変形性股関節症とは?
変形性股関節症は慢性進行性の疾患であるため、その進行予防は極めて重要な課題です。
現在まで、骨形態の異常や遺伝的要素、年齢(加齢)、性別(女性)など複数の要因が疾患進行に関わることが明らかになっています。
これらの要因はリハビリテーションなどの運動によって変化させることができない要因です。
①変形性股関節症になりやすい性別
国内におけるX線診断による変形性股関節症の有病率は1.0~4.3%で、これを日本の人口で換算すると120万~510万人になります。
また、単純X線診断による我が国の変形性股関節症の有病率は1.0~4.3%で、男性は0~2.0%、女性は2.0~7.5%と女性に高い傾向にあります。
日本の場合、先天性股関節 脱臼や先天性臼蓋形成不全が原因で長い年月のうちに変形性股関節症となるケースが90%を占めています。
②変形性股関節症の年齢層
日本の変形性股関節症の発症年齢は40~50歳となっています。
□1978~1999年に受診した股関節症患者5618例において、股関節痛をはじめて自覚した年齢は平均37歳であり、そのうち発育性股関節形成不全(脱臼)の既往のあったものは平均30歳で、なたっかものは平均43歳であった。
□1992~1994年に受診した股関節症700例では、股関節痛の初発年齢は平均50歳であり、(亜)脱臼性股関節症で平均48歳、一次性股関節症で平均59歳であった。
□2010年に発表された国内15施設の股関節症初診患者485例に関する多施設研究では、初診時年齢は50歳代が最も多く、次いで60歳代であった。
③変形性股関節症の症状
股関節症の主な症状は、関節の痛みと機能障害です。
股関節は鼠径部にあるので、最初は立ち上がりや歩き始めに脚の付け根に痛みを感じます。
関節症が進行すると、その痛みが強くなり、場合によっては持続痛や夜間痛に悩まされることになり、最終的に歩行が困難になります。
一方、日常生活では足の爪切りがやりにくくなったり、靴下が履きにくくなったり、和式トイレ使用や正座が困難になります。
また長い時間立ったり歩いたりすることがつらくなりますので、台所仕事などの主婦労働に支障を来たします。階段や車・バスの乗り降りも手すりが必要になります。
2.変形性股関節症の進行予防への取り組み~脊柱に着目せよ~
今回の記事のミソになる部分についてです。
気になる文献がこちらです。
こちらの記事に上記の文献について分かりやすく説明されています。
上記の文献では、以下のように記されています。
研究の結果、股関節の関節可動域制限や筋力低下など股関節自体の問題よりも、立っている時の脊柱の傾きと脊柱の柔軟性低下が重要な要因であることが明らかとなった。
この研究の詳細です。
□対象:本研究では京都大学医学部附属病院整形外科で変形性股関節症と診断された50名
□期間は:2013 年 4 月から 2015 年 3 月まで
□対象者:すべて女性
□評価項目:
①レントゲン画像(骨盤と大腿骨の隙間の幅)
②年齢や体重、股関節の形態
③股関節の痛み
④関節可動域制限
⑤筋力低下
⑥脊柱の柔軟性・脊柱の傾き(立位時の脊柱の傾き)
判定基準:
研究開始から1年後に再度レントゲン画像で股関節の隙間の幅を測定し、
○0.5 mm 以上軟骨がすり減っていた患者さんを進行群、
○それ以外を非進行群、
に分けてなぜこの 2 グループに進行度合いが分かれるのか分析を行なった
結果:
股関節の痛みや関節可動域制限、筋力低下などよりもむしろ、立位姿勢における脊柱の前方への偏りおよび脊柱の柔軟性低下が変形性股関節症の進行に関わる重要な要因であることが分かった
さらに、研究開始時点での年齢や体重、関節症の進行度の影響も含めて検討しても、やはり立位姿勢における脊柱の偏りや脊柱の柔軟性低下が疾患進行に関わることが明らかとなった
上記の研究結果から、変形性股関節症の進行予防には”股関節の機能”よりも”脊柱”に着目する必要があるということがわかります。
3.実際の脊柱へのアプローチの一例
上記の文献の結果から、脊柱への介入が股OAの進行予防に重要であると結論付けられています。
では、実際にどのようなアプローチを行っていけばいいのでしょう?
以下に、脊柱へのアプローチの一例をご紹介していきます。
①立位時の脊柱前傾の改善
まずは脊柱の前傾の改善ですね。
「脊柱の前傾」ってどういうこと?って思う方は以下の棒人形を見ていただきたいです。
「姿勢の悪化と脊柱の柔軟性低下が変形性股関節症の進行に影響」の画像を参考に作成したものを引用
このように、骨盤の直上に脊柱が位置しておらず、やや前方に偏位している状態を言います。
このような姿勢を変える方法を以下に紹介していきます。
(1)理想の立ち方を鏡で見る(自身でfeedbackをする)
これはごく当たり前の話ですが、意外と皆さん「やっていない」・「理解していない」ことだと思います。
なぜなら「度の姿勢が正しいかはっきりわかっていないから」です。
ただ鏡を見てぱっと見、姿勢が良ければそれで終わり。になっちゃいます。
今回の研究のように、”脊柱の前傾姿勢が悪影響を及ぼす”という事を知っていればそれを修正するように姿勢をフィードバック出来るようになります。
では具体的な方法を以下に記します。
「姿勢の悪化と脊柱の柔軟性低下が変形性股関節症の進行に影響」の画像を参考に作成したものを引用
【修正のための基礎知識】
●脊柱の前傾姿勢が修正ポイント
【方法】
□立った姿勢(横から)を鏡などで確認する
□踵の前方→膝とお皿の間→大転子(股関節の横の出っ張り)→肩(横の出っ張り)→耳垂(耳の前方付近)
このラインを意識していきます。
このラインは一般的な”いい姿勢”となるポイントになります。
大転子は上記の絵の黄色の部分になります。
腰に手を当てるような感覚で、腰から少し下に手を下げていくと骨盤の次にぶつかる骨が大転子になります。
そこを軸に、上半身が前方に位置しているかどうかを確認していきます。
(2)坐骨支持での座位訓練(坐骨結節への感覚入力と体幹伸展の協調改善)
次は、座った状態でのトレーニングになります。
【方法】
図:坐骨支持での体幹伸展トレーニングの一例
□座位で坐骨を触る(お尻の下に手を入れると触れる)
□坐骨にしっかり荷重をかけることで、坐骨の上にしっかり体幹が乗るようになる
□その状態で体幹の伸展を意識する
□体幹伸展位で深呼吸を3回行う(腹式呼吸で)
※体幹伸展時には腰を反りすぎないように注意する
※しっかり坐骨の上に体幹が乗っているか、後方にずれていないか、猫背になっていないかを診る
この運動により、股関節の上にしっかり脊柱を乗せることが出来るようになります。
過剰な身体の反りは余計な脊柱の前傾姿勢を誘発してしまうため、無理のない範囲で身体を起こすように意識します。
「スッと伸びる感じ」がベストです。
②脊柱の柔軟性改善
頸椎・胸椎・腰椎・仙椎(仙骨)合わせて脊柱と呼びます。
この中で仙椎(仙骨)は腸骨と合わさって「骨盤」を構成するため、ここでは、脊柱と呼ばす骨盤とします。
なので、頸椎・胸椎・腰椎の3つを脊柱とし、その柔軟性を改善させていきます。
この中で、柔軟性が低下しやすい部位があります。
それが「胸椎」になります。
何故かというと、胸椎だけ、他の構造体との接続があるからです。
どういうことかというと、胸椎には肋骨がつき、肋骨には胸骨がついているということです。
つまり、胸椎は肋骨・胸骨の3つ合わさり「胸郭」を構成するため構造的に安定している関節になります。
安定しているがために、逆に柔軟性も低下しやすいということですね。
その胸椎に対しての柔軟性改善方法を提示していきます。
(1)キャット&ドッグ
キャット&ドッグは胸椎の柔軟性を改善させるトレーニングの代表例になります。
具体的なトレーニング方法はこちらの記事をご覧ください。
胸椎は自律神経系との関わりも強い部分です。
(2)胸椎の回旋ストレッチ
図:胸椎の回旋ストレッチ
【方法】
□横向きに寝て、両手を合わせた状態をとる
□上になった側の手の甲を床に向けて(手の回内)、出来るだけ前方に手をリーチする
□その状態から上肢を回していく
□上肢を回すのに合わせて視線も追従する(手の動きに合わせて手先を目で追うようにする)
↳こうすることでより大きく胸椎を動かすことが出来る
□この運動を5回実施する
※運動の最中は”肩甲骨の動き”を意識することが大切
※この運動は”頭部前方位の姿勢(顎が突き出た姿勢)”を取っている方の改善にも有効
4.まとめ
今回は、変形性股関節症の進行予防に対するトレーニング方法をご紹介していきました。
変形性股関節症の進行予防には、脊柱の前傾姿勢の改善や柔軟性の改善が最優先される結果が、研究ではされています。
今現在、股関節になんら違和感なんてないよと思っている方も脊柱の柔軟性を維持することは、股関節に対してだけではなく、腰痛や頭痛などさまざまな問題が起こらないようにするためにも非常に大切になります。
それでは、本日はこの辺で!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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