体幹のインナーマッスルの一つである腹横筋は多裂筋と協同して体幹を前後から安定させています。
文献からも、
「多裂筋の深層線維と腹横筋は協同して働く」
と言われています。
多裂筋に関して興味がある場合はこちらからご覧ください。
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話を戻しますが、
この腹横筋ですが、コルセット筋とも呼ばれており、お腹を覆っている筋肉になります。
腹横筋が弱まってコルセットの役割を果たせなくなったらどうなるでしょう?
腹横筋はインナーマッスルであるため、弱化すれば当然姿勢も悪くなります。
その結果、腰痛や姿勢の悪化から身体全体に不調をきたすようになってきます。
今回は上記で挙がったインナーマッスルである腹横筋”について深く掘り下げていき、なぜ腹横筋のトレーニングが必要になるのかがわかる内容にしていきたいと思います。
1.腹横筋とは?
3D解剖学より引用
腹横筋とは、体幹筋の一つで、インナーマッスルと呼ばれています。
腹部の筋は大雑把に言って、3層構造になっており
表層から、
腹直筋⇒腹斜筋群⇒腹横筋
といった層を形成しています。
そのため腹横筋は最も深層にあるためインナーマッスルと言われています。
また、筋の形状的にもインナーマッスルとしてイメージしやすいものではないでしょうか。
腹直筋や腹斜筋群と比較して、腹横筋は腹部全体をコルセットのように覆っています。
その腹横筋は背部まで回っています。(途中で胸腰筋膜に変わりますが、、、)
ですから腹横筋は体幹を安定させる作用があると言えます。
ただ、腹横筋の厚みに関してですが、腹直筋などと比べると”薄い線維”となっています。
それでも背部の筋と協同して、腹腔内圧の上昇の役割も果たしている筋になります。
2.腹横筋の作用
腹横筋の作用については、
腹横筋の上・中・下の線維でそれぞれ作用が違ってきます。
●上部繊維(Upper) :胸郭の固定・安定
●中部繊維(Middle) :胸腰筋膜の緊張(腹腔内圧の上昇)
●下部線維(Lower) :仙腸関節の圧迫(骨盤帯の安定性向上)
と、このように作用が分かれています。
腹横筋の作用については、イメージとして上がってくるのは
「腹圧を高める」とか「体幹の安定化」など割と大雑把なイメージが多いと思います。
腹横筋の中でもそれぞれの場所で機能が少し違ってきますので、知識として覚えておくと例えば促通するときなどにはより効果的にアプローチできるようになると思います。
3.腹横筋についての知見
腹横筋については以下のような研究結果が出ています。
●腰痛患者は腹部固定筋の制御(コントロール)ができない
Marshall et al 2010
●慢性腰痛患者は一側肩を動かす間、腹部の筋活動は遅延する
Marshall et al 2010
●慢性腰痛患者を対象にしたモーターコントロールトレーニングは腹部固定筋の促通を改善する
Ferreira et al 2012
このことから、
腹部のインナーマッスルの正しい収縮の獲得が腰痛管理には必要
であることがわかります。
また、腹横筋の筋トレ方法として、以下のことを覚えておく必要があります。
●背臥位で下腹部を凹ますと腹横筋が最も活動する
●骨盤後傾(pelvic tilt)運動では内腹斜筋(中部)が最も活動する
●腹式呼吸では外腹斜筋が最も活動する
Urquhart DM,Hodges PW,Allen TJ,Story IH : Manual Therapy 2005
●下腹部を凹ました際、腹横筋の厚さの平均増加率は49.71±26.76
●骨盤底筋を収縮状態で下腹部を凹ました際、腹横筋の厚さの平均増加率は65.81±23.53
●四つ這い位で骨盤底筋を収縮させ、下腹部を凹ませたトレーニングは有効である
Critchley D 2002
上記の事から腹横筋のトレーニングは、
●下腹部を凹ませることで効果が高まる
●骨盤底筋を同時に意識することでより効果が高まる
上記の2点を意識することで腹横筋のトレーニング効果は高まることがわかります。
4.腹横筋の筋トレ方法について
実際のトレーニング方法を
①腹横筋のトレーニング
②腹横筋を含めた体幹の協調的な運動の練習
の二つを紹介します。
①腹横筋のトレーニング⇒プランク
まずは実際に腹横筋を鍛える方法をご紹介します。
方法は「プランク」です。
プランクは腹部の筋のトレーニングの代表的な運動の一つです。
腹横筋だけでなく、その他もろもろの筋も働きますので、負荷は少し弱めにした方が腹横筋に対しての効果は上がります。
無理をして、結局鍛えたいところを鍛えれていない人は多いと思います。
方法
①つま先を床に立てた状態で床にうつ伏せになる
②上半身を起こして前腕を床につける
③②の状態から腰・膝を浮かして、「前腕」と「つま先」で体重を支持する
④頭-背中-お尻-足のラインを一直線にする
⑤その状態を一定時間キープする
運動の流れは以上になります。
注意点
●身体の一直線のラインを崩さないこと
※背中が丸まったり、お尻を浮かしすぎたりしない。
●肘をつく場所は肩から真下におろした場所
●トレーニング中、身体がプルプルする場合は、負荷を落とす(両ひざを着いて行う)
●呼吸を止めない
※他人をお話ししながらできる負荷で行う
●きつい場合は、膝を着いて行う
頻度
プランクの姿勢を1分~3分間キープする。
回数は一日一回でOK。
プランクの方法については以上です。
この運動は負荷が強いこともあり、代償動作が出やすい運動でもあります。
もし負荷が強すぎてきついなと感じたら、下図のように
「前腕-つま先」での支持を、「前腕-両ひざ」での支持に変えてもOKです。
図:プランクがきつい場合の対処法方
両ひざでの支持にすることで、支持をしている前腕と足の間の距離が縮まるので負荷が弱まります。
楽になりすぎれば、両ひざの位置を前腕から離すように調整していけばいいわけです。
このとき頭-背中-お尻のラインは必ず一直線になるように意識します。
そうすれば効果はしっかり出てきます。
②モーターコントロールを利用した腹横筋のトレーニング
姿勢の安定化を図るうえで、
「均等なForce couplesの働きのほうが個々の筋の強化よりも重要である」
といわれています。
そのため、
インナーマッスルとアウターマッスルのバランスを上手くとることを目的にしたトレーニングも重要になってきます。
治療の選択としても、
まずは可動域やそれに伴った筋出力(パワー)を上げる、
そして、それぞれの要素(可動域やパワー)を上手く生活に活用するために学習させる
といった流れを取ります。
なので、協同的な収縮をせずにトレーニングだけで終わってしまっては、結局頑張って作った機能を使わずじまいになってしまいます。
そうならないためには、
腹横筋だけでなく、周囲の筋との協調した動きを練習していきます。
方法
①背臥位(仰向け)になり膝を立てた状態を開始肢位とする
※この時、腰椎のカーブが正中位になるのが理想(少し腰がベッドから浮くか浮かないかくらい)
②リラックスして、非常にゆっくりと腹部を床に向かって凹ませる
③下腹部に指を置いておいて腹部の動きをチェックする
④非常にゆっくりとした”沈み込む感じ”が確認できれば腹横筋が働いていると判断する
図:腹横筋のトレーニング(収縮を確認しながら行う方法)
注意点
●呼吸を止めない
●下腹部の沈み込みを確認する(アウターマッスルが働いていれば沈み込まず途中で腹部の筋が隆起してくる)
●上手くいかない場合は、骨盤底筋群を収縮(お尻の穴を締めるように)させてみる
頻度
呼吸に合わせて10回実施する
これを一日1回でOK
※頻度は少ないですが、どれだけ意識できるかがポイントです
実際に行ってみると、運動自体きついものではありません。
ただ、「何が何だかわからない」という感じになると思います。
このトレーニングは運動の再学習であるため、どれだけ意識して”沈み込む感じ”を捉えていくかがポイントです。
確かに高齢者や腰痛の方は、高確率で腹部を凹ませる際、早期から腹部の隆起を感じます。
そして凹ませ方がわからないことが多いです。
方法がわかっても、いかに腹横筋を意識させるかが非常に大変です。
~追記~
モーターコントロールを利用した運動と同じような運動でバルーントレーニングがあります。
こちらはZone of Appositionを最適化するために行うトレーニングですが、狙う反応は同じく腹圧を高めることになるので方法は少し違いますが同じような効果が期待できます。
まずモーターコントロールを利用したトレーニングを行い、感覚を掴めて来たらバルーントレーニングに移行するのが順序として最良ではないかと思います。
Zone of Appositionについて興味があればこちらの記事をご覧ください。
5.腹横筋の筋トレを行う際の注意点
今回はこの”薄い線維”で”腹部の深層”にある腹横筋をトレーニングしていくわけですが、
いくつか注意点があります。
これはインナーマッスルをトレーニングする際に分かっておかなければいけない内容ですので、他のインナーマッスルでも同様の事が言えます。
脊柱のfeedfoward & feedback controlの変化について、local muscleやglobal muscleは、痛みの存在によって拮抗的に作用を受けるglobal muscleの活動性が亢進すると、local muscleの活動性は低下する
Craig E. Morris : LOW BACK SYNDROMES 2006
※local muscle : インナーマッスルのこと
※global muscle : アウターマッスルのこと
この文献でもあるように、
「アウターマッスルが働けば、必然的にインナーマッスルの働きは落ちる」
という相反神経抑制と同じような作用が生じてしまうわけですね。
こうなると、いかにアウターマッスルを働かないようにしつつインナーマッスルを機能させるかがトレーニングのポイントになります。
※アウターマッスルが全く働かずにインナーマッスルが働くことはありえない状況です。あくまでバランスのお話をしています。アウターが優位なのか、インナーが優位なのかというお話です。
ここで、前回の記事でも話した内容ですが
アウターマッスルは、
「速筋線維が多く、パワーを生み出すのに優れていますが持続性がない」
という特徴があります。
逆に
インナーマッスルは、
「遅筋線維が多く、持久力(安定性)を生み出すのに優れていますが瞬間的なパワーは生み出せない」
という特徴があります。
このことから腹横筋などのインナーマッスルをエクササイズする際は、以下の4つを念頭に置いて実施する必要があることがわかります。
●大きな負荷はいらない
●ある程度、持続的な収縮が入る運動を選択する
●姿勢を保持する筋であるため、エクササイズ中の姿勢が重要
●ゆっくりと呼吸をいれながらの運動の方が効果が高い
6.まとめ
今回は「腹横筋」についてまとめていきました。
インナーマッスルのトレーニングを書こうと思ったとき、他のブログでも方法は載っているけどなぜその運動を行うのかを書いていないことが多いです。
意外と、
方法よりもなぜその運動を選択したのか
というプロセスの方が大事であったりします。
腰痛に関しても同じようなことが言えます。
腰痛になる原因は数えきれないほど様々です。
そんな問題が様々なのに、
この運動や治療をしたら全て治ります
なんて言われても怪しいだけですよね。
だから、その間のプロセスが大事になってきます。
それぞれ起こっている現象を理解して解釈して問題点を突き止めていく
このような過程を大事にすることで信頼度が上がってくるのではないかと思います。
そして、そういう過程の方が知りたいという人の方が多いようにも思います。
それでは本日はこの辺で。
ありがとうございました!!
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