前回、上殿皮神経(superior cluneal nerve:SCN)について文献を交えて記事をまとめていきました。
今回は、前回の記事の続きで、「上殿皮神経の絞扼部位」についてまとめていきたいと思います。
1.上殿皮神経の絞扼部位
上殿皮神経起因の腰殿部痛は、症状が増悪する動作が前屈、後屈、回旋など、個人によりさまざまであることが特徴です。
実際に、上殿皮神経起因の腰殿部痛を引き起こす病態として、①osteofibrous tunnelにおける上殿皮神経の絞扼、②胸腰筋膜貫通部における上殿皮神経の絞扼、③殿部の皮下組織の滑走不全に伴う上殿皮神経の牽引、④脊柱起立筋の筋内圧上昇に伴う上殿皮神経の絞扼、と複数の病態が報告されています。
【上殿皮神経障害により生じる腰殿部痛の病態】
①osteofibrous tunnelにおける上殿皮神経の絞扼
②胸腰筋膜貫通部における上殿皮神経の絞扼
③殿部の皮下組織の滑走不全に伴う上殿皮神経の牽引
④脊柱起立筋の筋内圧上昇に伴う上殿皮神経の絞扼
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①osteofibrous tunnelにおける上殿皮神経の絞扼
上殿皮神経が胸腰筋膜を貫通し、腸骨稜を乗り越えて殿部に分布する際、胸腰筋膜と腸骨稜にて構成されるosteofibrous tunnelを通過する例が一定数存在することが報告されています。
Kuniyaらは59体109足を対象とした解剖学的研究で、61側(全体の56%)で少なくとも1本の上殿皮神経がosteofibrous tunnelを通過していたと報告した。
さらに61側のうち2側において、osteofibrous tunnel内で上殿皮神経が絞扼されていたと報告した。
Maigneらはブロック治療で改善を認めなかった上殿皮神経起因の腰殿部痛患者19名に対し、外科的にosteofibrous tunnelの開放を行った。
その結果、術中上殿皮神経の光沢を認めた15名のうち、13名は少なくとも2年間は症状の緩和が持続していたと報告した。
以上より、osteofibrous tunnelにおいて上殿皮神経は絞扼されると、腰殿部痛が起こる可能性が考えられます。
上記の病態に対しては、胸腰筋膜の緊張を軽減することが重要となります。
※osteofibrous tunnelとは、胸腰筋膜と腸骨稜の間に存在するトンネル状の構造のことをいう
※胸腰筋膜を貫通して皮下組織内に出現する場合、腹側の腸骨と背側の筋膜で覆われた部分をosteofibrous tunnelと呼ぶ
【引用文献】
Kuniya H et al:Anatomical study of superior cluneal nerve entrapment. J Neurosurg Spine 2013; 19: 76-80
Maigne JY etc:Entrapment nueropathy of the medial superior cluneal nerve.Nineteen cases surgically treated,with a minimum of the two year’s follow-up. Spine. 1997;22: 1156-9.
②胸腰筋膜貫通部における上殿皮神経の絞扼
Kuniyaらはosteofibrous tunnelを通過しない上殿皮神経の枝は、腸骨稜の頭側で胸腰筋膜を貫通したと報告した。
Morimotoらは胸腰筋膜貫通部の除圧により、上殿皮神経起因の腰殿部痛が消失したと報告した。
以上の報告から、胸腰筋膜貫通部において上殿皮神経が絞扼されると、腰殿部痛が起こる可能性が示唆されます。
治療に関しては、先述したosteofibrous tunnelでの絞扼に対するアプローチとほとんど同じになります。
基本的には胸腰筋膜の筋緊張のコントロールが重要になってきます。
ちなみに、上殿皮神経が貫通する腸骨稜近傍の胸腰筋膜は、広背筋、内腹斜筋、腹横筋が付着します。
そのため、胸腰筋膜だけでなく、これらの筋の筋攣縮の改善及び伸張性の改善を図ることも大切となります。
【引用文献】
Kuniya H et al:Anatomical study of superior cluneal nerve entrapment. J Neurosurg Spine 2013; 19: 76-80
Morimoto D,et al:Surgical treatment of superior cluneal nerve entrapment neuropathy.J Neurosurg Spine 2013;19:71-75
③殿部の皮下組織の滑走不全に伴う上殿皮神経の牽引
林らは、超音波診断を用いて殿部における上殿皮神経の動態を観察した研究にて、「上殿皮神経は皮下組織と共に長軸方向に大きく移動する」と報告している。
また、上殿皮神経起因の腰殿部痛を有する患者の臨床的特徴として、殿部の皮膚を腸骨稜に寄せると上殿皮神経の圧痛が軽減し、逆に皮膚を腸骨稜から引き離すと上殿皮神経の圧痛が増強する所見を認めると述べた。
このことから神経への牽引は痛みに関与していると考えられ、さらに皮膚レベルの滑走性の問題も一つの因子になり得る可能性が認められています。
以上より、変性や瘢痕化による皮下組織の効果または深部にある大殿筋、中殿筋の筋攣縮により、皮下組織と殿筋膜との間の滑走性が低下した状態で動作を行うと、上殿皮神経が牽引され、痛みが生じる可能性が推測されています。
このことから、皮下組織と深部にある殿筋筋膜との間の滑走性を改善することが重要であることが考えられます。
【引用文献】
林 典雄:知っておくべき腰殿部痛の病態.理学療法研究; 2016; 33: 3-7
④脊柱起立筋の筋内圧上昇に伴う上殿皮神経の絞扼
Tubbsらは10体20側を対象とした解剖学的研究で、全例において上殿皮神経は脊柱起立筋を貫通していたと報告した。
この結果から、脊柱起立筋の内圧上昇は上殿皮神経の絞扼を引き起こす可能があることが予想できます。
脊椎圧迫骨折後やパーキンソン病のように前傾姿勢が日常化する異常姿勢をとる病態において、上殿皮神経起因の腰殿部痛が認められることが報告されており、脊柱起立筋の筋内圧上昇に伴う上殿皮神経の絞扼は腰殿部痛を引き起こす可能性が推測されています。
上記のような病態の場合の治療法としては、「脊柱起立筋の筋内圧上昇を下げること」が重要になります。
脊柱起立筋の筋緊張の緩和を図ることが大事ですが、その前に脊柱起立筋と関連のある胸腰筋膜の緊張も軽減しておくことが治療効果を高める上で大切になります。
【引用文献】
Tubbs RS,et al:Anatomy and landmarks for the superior and middle cluneal nerver : application to posterioriliac crest harvest and entrapment syndromes. J Neurosurg Spine 2010;13:356-359
2.まとめ
今回は、上殿皮神経の絞扼部位別の問題点と治療法について簡単にまとめていきました。
上殿皮神経障害による腰痛はマイナーなイメージはありますが、今回紹介したように研究はずっと以前から進められており、徐々に認知度が高まっている問題かと思います。
そして今回紹介したように、ひとえに上殿皮神経の問題といっても”どこで絞扼しているか?”によって治療ポイントは変わってきます。
まずは絞扼部位を理解し、治療展開のイメージを作っていきたいですね。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!
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