今回は、捻挫後に足首の制限をきたした症例について検討していきます。
症例の訴えとしては、
「長く歩いたり走ったりするとスネの前の筋肉が痛くなる」
であり、症例自身は捻挫との関連性はないと思っていました。
そんな方に問診を進めていくと以前ひどい捻挫をした経験があるとのことで因果関係がはっきりしたケースです。
意外と捻挫だからといって腫れてても冷やすだけなどの軽い処置しかしないことが多いように思います。
捻挫自体は腫脹や炎症が落ち着けば見た目は問題なく見えますが、損傷の度合いで変わってきますが基本的には”靱帯の損傷”をきたしているわけですから問題ないわけではないですよね。
靱帯は関節の制動も行う大事な組織です。
その靱帯が損傷して関節の不安定性を来せば二次的に他関節に影響を及ぼすことは容易に想像できます。
今回はそんな捻挫について復習しながら今回の症例について検討していきます。
1.症例紹介
□30歳代男性
□スポーツ歴あり(フットサル)
※フットサルは現在も続けており、週1~2のペースで行っている。
□主訴は「長く歩いたり走ったりするとスネの前の筋肉が痛くなる」
※前脛骨筋の痛みを訴えていました。
□身体の柔軟性はもともと乏しく腰痛持ち
※腰痛の発生時期に関しては不明(そのため捻挫との関連性はわからず)
2.捻挫に対する局所評価と全体の評価
【局所の評価】
□背臥位にて右足関節の背屈制限あり。自動・他動ともに。
□背臥位での足部の状態は左側は底屈位、右側は底屈-内反を呈していた。
□痛みはとくにないが、自動での背屈時に足関節前面につまり感あり。
□他動で背屈の可動域の評価をした際のエンドフィールは軟部組織性よりは骨性の印象。
※下腿三頭筋はかなりタイトであるため軟部組織性の制限もあるか。
□筋出力の大きな差はないが、持続的な収縮力は右足関節が劣る。
【全体の評価】
□脊柱はフラット気味
□ややO脚で外側支持で立っている印象(大腿外側のハリ強い)
□立位での腓骨の高さは右側が下がっている(腓骨頭と外果の高さにて判断)
□踵を付けた状態でのしゃがみ込みは不可
※踵を浮かせば可能(股関節の可動性も低いか・・・)
3.捻挫と背屈制限を関連付ける(評価からの解釈)
評価の結果を拾っていきます。
□背臥位での足部の状態は左側は底屈位、右側は底屈-内反を呈していた。
□自動での背屈時に足関節前面につまり感あり。
□エンドフィールは軟部組織性よりは骨性の印象。
□立位での右側の腓骨が下がっている
□踵を付けた状態でしゃがみ込みが出来ない
上記の評価結果から、
背臥位で右側は「底屈-内反」を呈していた
⇒捻挫で靱帯の制動力が低下しているか?
足関節前面につまり感があり、背屈の制限は骨性
⇒距骨の衝突を起こし背屈しづらいのを前脛骨筋の過剰収縮により代償しているか?
右側の腓骨が下がっている
⇒背屈に必要な腓骨の挙上がないために距骨のはまり込みが上手くいかず、衝突を招いているか?
しゃがみ込みが困難
⇒足部だけの問題ではなく、股関節や体幹にも波及しているかもしくは別に問題としてあるか?
などが考えられました。
上記の内容から、今回の”背屈制限の原因”としては、
第一に「腓骨が下がっている」
ということが大きな問題ではないかと考えました。
腓骨が下がってしまっているから、背屈時に腓骨の挙上が起こらず距骨が脛骨腓骨の間にはまり込めずに衝突を起こしてしまっていると考えました。
それでも背屈を出すために前脛骨筋は過剰収縮となり過緊張状態が続き、活動時に同部位に痛み症状を引き起こしているものと考えました。
少し内容がややこしくなりましたね、、、
この辺の具体的な話はこちらでまとめていますのでご覧ください。
話を戻して、、、
ここで考えるべき点としては、
「なぜ腓骨が下がっているのか?」
だと思います。
これは単純に、
「捻挫による内反ストレスが靱帯に影響を及ぼした結果、靱帯の制動力が低下したため」
ではないかと思われます。
このことにより、
「足部のアライメントの破綻が下腿にも影響し下肢・体幹へと波及しているか、もしくは今後そうなってくるのではないか」
と考えました。
以上の事から、捻挫後のケア不足により足部アライメントの異常をきたした結果、背屈制限に至っていると考えました。
そして、今後もほったらかしにしていたら他関節(膝や腰部など)に二次的な問題(膝OAや腰部疾患)を引き起こすリスクが考えられました。
そうならないためには、
前脛骨筋のハリが強いからと言って単純に前脛骨筋のストレッチやマッサージをするのではなく、足部アライメントの改善を目的としたアプローチが必要であると考えました。
次項で今回行ったアプローチ内容を書いていきます。
4.捻挫後に起こった背屈制限に対する治療アプローチ
まず実際のところ本当に
「腓骨が下がっているから背屈制限があるのか?」
を検証していきました。
方法は、単純に徒手にて腓骨の押し上げを行い、再度背屈の可動域を評価を行いました。
その結果、背屈可動域改善が見られ、
腓骨が下がっていることが背屈制限を助長している因子であることがわかりました。
以下に実際に行った「腓骨を上げるためのアプローチ」をまとめます。
①下腿骨間膜のリリース
下腿骨間膜は”脛骨”と”腓骨”の間にある膜です。
今回捻挫をしてからある程度期間が経過しているため、腓骨が下がっている状態が長期間持続していたことが考えられます。
そのため右側の腓骨の上下運動の幅も低下していることが考えられます。
ということは、その間にある骨間膜の動きも必然的に低下しますよね。
なので、まずは下腿骨間膜へのコンタクトを行っていきました。
下腿骨間膜へのコンタクトの方法は前方からと後方からの2パターンありますが、
今回は前方から行いました。
前方からコンタクトする際は、前脛骨筋と脛骨の間から入っていくようにします。
図:下腿骨間膜
プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第3版より引用
②前脛骨筋のトリガーポイントに対するアプローチ
前脛骨筋のトリガーポイントは足首の前面に痛みなどを送ります。
今回は足首の前面につまり感の訴えがあったため、トリガーポイントの影響の確認を行うためにも実施していきました。
実際に前脛骨筋のトリガーポイントにて足首の前面に放散痛が見られたため、背屈制限に影響を及ぼす一因子であることが考えられました。
ただ、この前脛骨筋のトリガーポイントは二次的なものであると判断しました。
先程も述べましたが、第一の問題は「腓骨が下がっていること」であり、
その結果、前脛骨筋の努力的な活動によりトリガーポイントが形成されたものと解釈しました。
図:前脛骨筋のトリガーポイント
③外反運動を実施し腓骨筋の収縮を入れていく
こちらは主に自主トレーニングとして指導しました。
単純ですが、捻挫により内反方向への動きが強くなっています。
ということは、相対する動きである外反の動きを出す筋は必然的に弱化します。
そのため継続的に外反筋のトレーニングは必要になってきます。
足部の外反の動きに関わる筋は”腓骨筋”です。
足部が常に内反していれば腓骨筋は弱化していくことが考えられます。
そのことを指導し自主トレーニングに取り入れました。
④中殿筋のエクササイズ(外側ライン)
アナトミートレインの”外側線”では、
腓骨筋-大腿筋膜張筋-大腿筋膜張筋・中殿筋・大殿筋-内腹斜筋
といった筋筋膜の連鎖があります。
この外側線のラインを考えていくと、
捻挫により内反しやすくなっているとしたら、中殿筋の収縮力の低下していくということが予想できるようになります。
※内反することにより外側線のラインが下方に引っ張られるため中殿筋は収縮しにくくなります。
このことを考えて中殿筋のエクササイズを導入しました。
中殿筋のエクササイズを行うときは
”しっかり股関節を伸展させた状態で行う”
ここだけに注意というか意識してエクササイズしていきます。
※ちなみに中殿筋は仙腸関節とのかかわりが強い筋と言われています。この中殿筋がしっかり働かないと仙腸関節性の腰痛が二次的に起こることが考えられるため注意が必要ですね。
図:外側線(ラテラルライン)
アナトミー・トレイン第3版 徒手運動療法のための筋筋膜経線より引用
⑤大腿筋膜張筋のリリースにて中殿筋が働きやすい環境を作る
先程の外側ラインでは大腿筋膜張筋もラインの中に入っています。
なので大腿筋膜張筋の収縮力も大事になります。
しかしここでは、”収縮の割合”で考えてほしいです。
腰痛の人や膝OAの人のほとんどは大腿筋膜張筋の収縮が過剰になっており、中殿筋の収縮力は低下しています。
身体の特性として、
単関節筋よりも二関節筋の方が代償動作で使用されやすい
というものがあります。
なので、大腿筋膜張筋の方が活動量が増加してしまうんでしょうね。
そして同じ作用の中殿筋は働かなくてよくなるので弱化していくという悪循環をきたします。
その悪循環を改善させるために、
中殿筋のエクササイズだけでなく、大腿筋膜張筋のリリースを行い中殿筋の働きを間接的に出していくことが重要になると思われます。
具体的な方法はこちらをご覧ください。
6.まとめ
今回は症例検討シリーズで実際のアプローチについて書いていきました。
以前、足部や足底版のセミナーに行ったときによく、
「捻挫などで足部機能に異常をきたすと今後、腰痛を発症するよ」
って言われていました。
その時はよくわかっていなかったですが、実際に症例を通して考えていく際、足部の問題から腰痛を発症する可能性は確かに無きにしも非ずだなと思います。
というか実際に関連ありますよね。
セラピストの役割は目に見える症状に対し介入していくだけでなく、
「今後どうなるからここもケアしておいた方がいい」
といった形で、広くその対象者を診れることが理想ではないかと思います。
実際に最近ではよく”予防分野のリハビリ”のことを耳にします。
もっと広く見れるように努力していきたいですね。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!!
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