末梢神経障害の回復の原理と限界を理解しよう

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理学療法
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末梢神経障害は整形外科疾患で比較的多く見受けられる症状になります。

 

痺れなどを含む異常感覚や筋力・筋出力低下を認め、その他自律神経障害も併発します。

こういった症状の訴えを聞くと、「神経系の問題だから仕方ない」と説明してしまいがちではないでしょうか?

セラピストは筋や関節に対しては豊富な知識を持っていても、神経系の問題になるとどこかネガティブな反応を示すように思います。

 

今回は、そんな神経系の問題を少しでも理解できるように記事にしていきたいと思います。

 

末梢神経障害に関する以前の記事はこちらにあります。

文献的視点でまとめられており、少しわかりにくいですが、読み込めばわかりやすいです・・・

手足の痺れ症状の改善に必要な知識~神経の解剖と生理学~
日頃、臨床では「痺れ」を訴える方をよくリハビリします。腰痛関連では腰部脊柱管狭窄症やヘルニアなどですね。そして厄介なのが、「痺れは手術をしても残存することが多い」ということです。今回はその痺れについて考えていきたいと思います。

 

 

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1.末梢神経障害の症状は?

末梢神経には、運動神経・感覚神経・自律神経といった3つの機能の異なる線維が含まれています。

そのため、末梢神経障害の場合、大きく分けて「運動機能」・「感覚機能」・「自律神経機能」の3つの問題が単一もしくは複数の症状として現れます。

 

「運動機能」に関連する問題

障害されている末梢神経が支配している領域の筋力低下や筋出力低下をきたします。

 

この状態が長引けば筋委縮を伴うようになります。

 

「感覚機能」に関連する問題

障害されている末梢神経が支配している領域の痺れや感覚鈍麻を生じます。

その他、痺れ以外にも異常な感覚が引き起こされたりします。

 

「自律神経機能」に関連する問題

末梢神経の障害により自律神経障害異常をきたすと以下のような症状をきたします。

●起立性低血圧

●発汗障害(異常な発汗など)

●血流の障害

●栄養障害

●膀胱直腸障害

などが挙げられます。

 

 

2.末梢神経障害の原因~絞扼性神経障害~

末梢神経障害の原因はいくつかありますが、リハビリ場面で遭遇することが多いケースとしては、「絞扼もしくは圧迫性の末梢神経障害」が挙げられます。

 

絞扼・圧迫性の末梢神経障害の原因

●骨折

●絞扼性神経障害(姿勢の問題や習慣的な動作の問題)

●手術・麻酔時の圧迫(無意識下での長時間の圧迫)

 

絞扼性神経障害の一覧

絞扼性神経障害とは、末梢神経が解剖学的な狭窄部位で、機械的刺激を受けることによる生じる障害です。

以下に絞扼部位をかきだします。

●胸郭出口症候群

●回内筋症候群

●肘部管症候群

●手根管症候群

●ギヨン管症候群

●梨状筋症候群

●足根管症候群

●モートン病

などが挙げられます。

Ope適応としてよく行われているのが、肘部管症候群や手根管症候群になります。

また、胸郭出口症候群や梨状筋症候群はよく外来リハビリで遭遇する疾患になります。

 

 

3.末梢神経損傷の分類

Sedonの分類は、末梢神経損傷を程度によって3つの段階に分類しています。

①一過性神経伝達障害

②軸索断裂

③神経断裂

この3段階に分かれます。

 

また、これにSunderlandの分類がSedonの分類をさらに細分化したものになり、両者を一緒に理解しておくと良いかと思います。

 

Sedonの分類⇒⇒⇒末梢神経障害の病態の分類

Sunderlandの分類⇒末梢神経障害の予後の分類

図:Sedonの分類とSunderlandの分類について

病気がみえるvol.11 運動器・整形外科より一部改変し引用

 

①一過性神経伝達障害

基質的に異常がない、または髄鞘に軽度の異常を認める状態のことを言います。

 

少し具体的に説明です。

軸索の断裂を伴わない一過性の伝導障害であり、原則として数日から数週間、通常12週間以内に完全回復するとされています。

肉眼的には正常なことが多く、損傷部位では伝導障害を認めることがあるようです。

 

 

この一過性神経伝達障害はSunderlandの分類でも”1度”に相当し、

「器質的な異常がないため、完全に回復するレベル」と位置付けられています。

 

正座後の足の痺れや長時間の圧迫で生じる末梢神経症状がここに相当する

 

②軸索断裂

軸索が断裂し、損傷部より末梢側の栄養供給が絶たれる状態を言います。

損傷部位より末梢側ではワーラー変性が生じます。

 

少し詳しい説明です。

軸索は断裂しているが、シュワン管および周膜の連続性は保たれている状態のことを言います。

軸索はワーラー変性をきたし、Tinel 徴候が出現しますが、内膜は損傷されていないため再生軸索は元の効果器に到達します。

1週後より0.5~2mm/日の速度でTinel徴候が遠位に進行すれば順調な再生と考えられています。

 

この軸索断裂は、Sunderlandの分類ではさらに3つの段階に分かれます。

●2度「軸索のみの断裂」⇒完全に回復する Tinel徴候+ 

 

●3度「神経内膜も損傷」⇒完全には回復しない Tinel徴候± 手術適応±

※シュワン管の断裂は認めるため、一部の再生軸索が元のシュワン管に再生しない神経過誤支配を生じるため機能回復は不完全な場合が多くなる

●4度「神経周膜も損傷」⇒神経剥離術などを用いなければ回復は困難 Tinel徴候+ 手術適応+

※神経周膜が断裂し神経断端間には瘢痕組織が介在しているため自然回復は期待できない

※神経縫合を行っても機能回復は不完全な場合が多い

 

Sunderlandの分類の2度と3度が末梢神経障害の予後のポイントになる

 

 

③神経断裂

神経幹・神経束が肉眼的に不連続となる状態を言います。

損傷部より末梢側でワーラー変性が生じます。

 

少し詳しい説明です。

軸索、神経上膜が断裂し肉眼的に連続性が無いか、あっても瘢痕により軸索の連続性が失われています。

自然回復は期待できず神経縫合術の適応となりますが、ある程度の神経過誤支配misdirectionは不可避となります。

 

Sunderlandの分類では、5度にあたります。

5度「神経上膜も損傷(つまりすべて断裂)」⇒神経縫合術や神経移植術を用いなければ回復は困難 Tinel徴候+ 手術適応+

 

ここまでひどい末梢神経損傷は”開放性損傷(切創など)”などが主になる

 

 

4.末梢神経損傷の回復について

神経線維が損傷を受けると、神経細胞体や軸索に変化が起こることがあり、これを変性と言います。

 

変性には順行性と逆行性があります。

損傷部位より末梢側の軸索は細胞体からの栄養が供給されないため、損傷後数日以内に変性・消失します。

これをワーラー変性(Waller変性)と言います。

このワーラー変性は順行性の変性となります。

図:神経損傷の回復過程

病気がみえるvol.11 運動器・整形外科より一部改変し引用

 

末梢神経では損傷が軽度であれば神経線維は再生可能であり、軸索が末梢方向に伸びて再生していきます。

一日あたり最大約1㎜の速度で再生するといわれています。

 

一方、損傷部位より近位側に起こる変性を逆行性変性と言います。

この場合も神経細胞体が生存していれば再生可能であるとされています。

 

神経の回復には時間が必要であり、ある種長期的な目で評価していくことを患者さんに理解してもらう必要がある。

 

 

補足:Tinel徴候とは?

断裂神経の断端にできる神経腫や絞扼性神経障害で絞扼部の近位にできる偽神経腫を叩打すると、その神経の支配領域に電気が走るような放散痛を生じます。

※損傷神経を軽く叩くことで支配領域にチクチク感など放散痛生じます。これをTinel徴候と言います

 

これをTinel徴候(偽性Tinel徴候)と呼びます。

これは末梢神経の切断後、近位端から軸索の再生が始まりますが、再生軸索の先端はまだ髄鞘に覆われていないために生じる反応です。

 

伝導障害(Sunderland1度損傷)や神経根引き抜き損傷では神経腫を形成しないためTinel徴候は認めません。

 

Tinel徴候は再生軸索の先端にも見られるため、遠位への進展が見られない場合は神経断裂(Ⅳ・Ⅴ度損傷)、遠位への進展が見られる場合は軸索断裂(Ⅱ・Ⅲ度損傷)の自然回復または神経縫合後の軸索再生を示します。

 

なお、神経過誤支配があるためTinel徴候の遠位への進展は機能回復を保証するものではないとされています。

※Tinel徴候で神経の回復を評価するという文献も見かけますが、神経過誤支配を考慮すると整合性は確かに低いのかもしれませんね。

 

 

5.まとめ

今回は、末梢神経障害の回復の原理と限界を理解するために記事をまとめていきました。

「神経疾患は治らない」とか「どうにかすれば治るかも・・・」とか絶望であったり根拠のない希望であったり・・・様々な思考が錯綜することがあると思います。

 

今回の内容でわかることとしては、

Sunderlandの分類の2~3度が末梢神経障害の予後の一つのポイントになるということです。

Sunderlandの分類の2度では末梢神経障害の予後は良い状態で、3度以降は完全な回復はしないもしくは神経に対しての手術の適応となると、大きく差が出てきます。

 

これは「軸索のみの断裂なのか」、「その軸索を覆っている神経内膜までの断裂なのか」の差であることを理解していきましょう。

 

まずはSedonの分類とSunderlandの分類の存在を理解し、神経系の問題に出くわしたとき、どの分類に属しているのかを考えながら介入していくとある程度予後が予測できるようになりそうですね。

 

それでは本日はこの辺で。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!

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