今回紹介する”内転筋”は筋量が多く、筋膜トリガーポイントにより生じた各種筋緊張により非常に影響されやすい部位です。
内転筋は割と馴染みのない部位であり、トリガーポイントはたいてい気づかれずに治療もされない部分になります。
しかし、内転筋のトリガーポイントは、変形性股関節症など股関節の障害と誤診される例が頻繁に起こります。
具体例として、内転筋のトリガーポイントは、股関節や膝関節の関節炎と誤診されやすいということが言われています。
内転筋のトリガーポイントの痛みを誤って関節軟骨の摩耗のせいにすると、不要な股関節と膝関節の置換術を行うことになってしまい、患者に不要な負担をかけることになります。
逆を返せば、それだけ内転筋が股関節や膝関節の症状と密接に関わっているということになりますね。
今回はそんな内転筋のトリガーポイントについて股関節の障害と関連付けながらまとめていきたいと思います。
1.それぞれの内転筋のトリガーポイントを紹介
内転筋と股関節の問題を関連付けていく前に、内転筋それぞれにトリガーポイントが出来るとどういった症状が出るかをまとめていきます。
内転筋の作用などの詳細に関してはこちらの記事でご確認ください。
①恥骨筋
恥骨筋は、内転筋群の中で最も高位にある筋です。
鼠径部の屈曲部すぐ下にあるくぼみに位置します。
脚を組む動作で恥骨筋は大きく貢献します。
恥骨筋のトリガーポイント症状
恥骨筋トリガーポイントからの痛みは、足と胴体の接合部にある鼠径部深部に起きます。
鋭い痛みや深部痛を伴い、多くの場合は股関節自体に問題があると誤診されます。
図:恥骨筋のトリガーポイント
恥骨筋にトリガーポイントができる原因
不意に滑ったり、転倒したりすると恥骨筋は過剰収縮か過伸展を起こします。
無理なストレッチなどでも恥骨筋にトリガーポイントを形成する原因となります。
また、長時間の座位や足を組む動作、しっかりと足を閉じている状態は恥骨筋に悪影響を与えます。
人工股関節置換術は、恥骨筋にトリガーポイントを残し、原因不明の持続的な痛みを生じさせる可能性があります。
②長内転筋と短内転筋
長内転筋と短内転筋は、両方とも恥骨と大腿骨の後面上部に付着します。
長内転筋と恥骨筋は短内転筋を完全に覆っています。
長内転筋と短内転筋のトリガーポイント症状
上記の2つのトリガーポイントは、鼠径部痛の最も典型的な原因になります。
通常、痛みは股関節の深部で感じられ、しばしば大腿内側から膝の内側、下腿内側にまで遠位に拡大します。
痛みは、激しい活動中に起き、何かを運ぶ際はさらに増します。
大きな特徴としては、休息している間は痛みを全く起きないことが多いことです。
また、長内転筋と短内転筋トリガーポイントは股関節のこわばり間を引き起こし、全ての方向における大腿の動きを制限し、外旋も制限する傾向があります。
変形性股関節症は、高齢者に共通する症状であり、トリガーポイントの痛みと類似した痛みを起こします。
関節症の痛みはトリガーポイントの痛みと異なり、大腿内側よりも股関節外側で感じられることが多いです。
それにもかかわらず、長内転筋と短内転筋のトリガーポイントからの痛みは、関節症として誤解されることがあります。
図:長内転筋と短内転筋のトリガーポイント
長内転筋と短内転筋にトリガーポイントができる原因
過度に大股で歩いたり、または過度に開脚したりすることも長内転筋の筋挫傷を引き起こします。
股関節を極端に動かすことも原因になります。
例えば、普段運動しない人が急にウォーミングアップもせずに運動した際に腰痛や股関節を痛めることがありますが、それは内転筋のトリガーポイントが活性化して起こる症状である可能性があります。
トリガーポイント自体は、身体が冷えて硬い状態で運動や仕事を始めると非常に早くトリガーポイントが活性化すると言われています。
このように、急な運動はトリガーポイントの活性化を引き起こす可能性があり、特に内転筋はどの運動にも作用するため、トリガーポイント症状を引き起こしやすくなります。
③大内転筋
大内転筋は恥骨と坐骨の間に付着し、3つの部位に分かれて停止します。
最も長い停止は膝のすぐ上部に付着します。
大内転筋の主な機能は、大体を強く内転させ、足を閉じることです。
また、歩行やランニング中に骨盤を安定させ、大腿を広げるのを助ける働きもあります。
大内転筋のトリガーポイント症状
大内転筋上部にあるトリガーポイントは、骨盤内の痛みを引き起こします。
この深部痛はかなり拡散することがありますが、一方で恥骨・膣・直腸・前立腺・膀胱に局所的な鋭い痛みを引き起こすこともあります。
大内転筋中央部のトリガーポイントは、痛みとこわばり感を大腿内側から鼠径部、膝近くまで生じさせます。
図:第一と第二の大内転筋のトリガーポイント
大内転筋にトリガーポイントができる原因
大内転筋は、階段を昇る、乗馬中に馬の側部を抑える、スキーで素早く方向を変えるなどの活動に使用されます。
これらの活動が過剰に行われると大内転筋にトリガーポイントが生じる可能性が高まります。
また、階段を降りるときに突然足を滑らす、氷の上で滑る、自動車の乗り降り動作などでも大内転筋を痛めます。
要するに足を開いているときに突然、過負荷がかかることや足を滑らせることはどんな場合でも大内転筋を痛めることになります。
④薄筋
薄筋は薄く平らな筋であり、骨盤から膝にかけて着き、縫工筋と並んで非常に長い筋であります。
薄筋のトリガーポイント症状
薄筋のトリガーポイントからの痛みは、局所的であり、他の部位に関連痛を送らないのが特徴です。
通常、痛みは大腿内部に沿った皮膚の真下で灼熱感や鋭い痛みとして感じられます。
また、痛みは一定で体位を変えても消失することはありませんが、ウォーキングにより緩和されることがあるといった報告もあります。
図:薄筋のトリガーポイント
薄筋にトリガーポイントが出来る原因
薄筋のトリガーポイントは、他の内転筋のトリガーポイントからの関連痛により誘発されます。
2.内転筋のトリガーポイントと股関節障害の関係性は?
結局のところ、内転筋のトリガーポイントと股関節障害とは関連があることがわかりました。
しかし、変形性股関節症などの症状では股関節の外側に痛みが出たりなど、内転筋由来の問題と違う点もあり、痛みの出方で判断していく必要もありそうです。
とはいっても、変形性股関節症の方、それに臼蓋形成不全を既往に持っている場合なんかは、股関節の適合性を高めるために基本的に股関節は内旋位をとっています。
股関節が内旋位となると、運動連鎖の関係で股関節内転位を取りやすくなります。
つまり内転筋は短縮位を取り、結果的に股関節のつまり感を感じやすくなる原因になってきます。
こういったバイオメカニクス的な観点からも変形性股関節症になると内転筋の問題が並行して生じる可能性があることが十分に説明できます。
股関節の構造の話に関しては、こちらの記事が非常にわかりやすかったので紹介しておきます。
股関節の構造的にも、股関節の正常な可動を得るためには、”内転筋の緊張コントロール”は非常に重要なポイントになってきます。
細かく説明していくと、以下のように説明できます。
臼蓋の構造上、大腿骨頭の軸回旋運動はやや外旋方向が負荷なく動くようになっており、正中での屈曲は構造上詰まりやすくなっています。
それに加え、内転筋の問題で、内転・内旋位になれば余計に股関節の動きを制限してしまい、つまり感やインピンジメントを引き起こしてしまいます。
このようなことから、内転筋の問題は股関節機能に大きく影響し、その延長線上に内転筋のトリガーポイントも潜んでいる可能性があると考えられます。
3.まとめ
今回は、内転筋の問題と股関節障害についてトリガーポイントの視点から考えていきました。
私自身、変形性股関節症などの股関節疾患をリハビリしていく際は内転筋の問題は必ずチェックします。
そして多くの場合、内転筋の問題が多く潜んでいます。
股関節のつまり感であったり、純粋に可動域制限であったりなど・・・その際に内転筋のトリガーポイントを治療していくことで上記の訴えが改善されることはこれまでに多く経験してきました。
以上のことから、股関節疾患を評価するときは内転筋の問題も評価していくことをおススメします。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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