TKA術後は「大腿四頭筋のトレーニングが非常に大事である」という文言は、整形外科の病院で働くスタッフであれば一度は聞いたことがあると思います。
TKA術後だけに留まらず、変形性膝関節症の場合でも同様です。
では、なぜ大腿四頭筋のトレーニングが大事になるのでしょうか?
その背景には、TKA術後患者を長期間調査した結果、大腿四頭筋のトレーニングが重要と判断されたからです。
今回は、その部分を少し掘り下げて記事にしていきたいと思います。
1.TKA術後の筋力に関する文献
TKA術後の筋力低下について2016年に比較的具体的な文献が発表されました。
TKA術後、3か月後に筋力は最低に達し、その後6か月後に術前レベルまで改善する
海外の文献ではありますが、TKA術後の筋力の推移は上記のように示されています。
筋力低下にはさまざまな因子が関わっていると思われますが、それでも術後3か月で最低を迎えるって、じゃあその間は不安定さを伴うってことですよね?
最近のTKA術後のリハビリは予後もいいことから早々に終了を迎えています。
早い所では術後1週間で退院を迎えそれ以降は外来フォローと言ったところもあります。
平均的には入院リハ期間は3~4週間程度でしょうか。
仮に4週間でも28日。
3か月は約90日なので1/3が過ぎた所ですね。
つまり、退院してからも筋力の回復が伴っていないので無理は出来ないということがわかります。
この事実を知っているかどうかで、退院時のホームエクササイズの熱量が変わってきますよね。
あと、過度に不安になっている患者さんへの対応にしても説得力に差が出てきます。
大腿四頭筋の強度の低下は術後3か月のハムストリング筋力の低下よりも有意に大きかった
もう一つ、この文献では興味深い内容が記されていました。
この研究では、TKA術後の大腿四頭筋とハムストリングスの筋力をチェックしています。
その中で、術後3か月時点で、
「大腿四頭筋の筋力がハムストリングスの筋力と比較して有意に筋力低下を引き起こしていた」
という事実です。
この事実があるために、
「TKA後の早期リハビリテーションは大腿四頭筋の筋力の回復に集中すべき」
という結論に至っています。
「TKA術後は大腿四頭筋、特に内側広筋を鍛えよう」
私が学生の頃なんかはこのように指導されました。
この時は、内側広筋に着目して”単関節筋と二関節筋の問題”として考えており、もっと大きな「なんで大腿四頭筋だけ?」っていう疑問を抱いていませんでした。
この文献を見る限りでは、少なくとも術後早期はハムストリングスの筋力よりも大腿四頭筋の筋力トレーニングが必要であることがわかります。
このように背景を知るとトレーニングに迷いがなくなりますよね。
2.TKA術後のリハビリ
上記の文献を踏まえると、「大腿四頭筋の筋力トレーニング」は必須項目になってきます。
ここは術後のリハビリを行うものとしてブレずに取り組んでいかなければならないことだと思います。
ですが、それだけでいいでしょうか?
術後の問題は筋力低下だけでしょうか?
・・・そうではありませんよね?
➢痛みの軽減(術後の炎症・不安・筋緊張etc…)
➢可動域改善
➢協調性改善(歩きやすさ)
➢耐久性改善
➢動作指導(階段昇降・床上動作・その他ADL動作)
などなど挙げだしたらキリがありません。
この中の一部に、
「筋力低下には大腿四頭筋の筋力トレーニングを行う」
といった課題が組み込まれるだけです。
歩行時の歩きやすさの改善にはもしかしたら大腿四頭筋ではなくてハムストリングスの筋力トレーニングが必要なのかもしれません。
※術後疼痛から膝ロックでの歩行となりハムストも効かなくなっている場合は、膝を曲げる運動よりもハムストを効かせていく方が効果的であったりする
実際のところ治療の一場面ではケースバイケースなところがあります。
必要な事はベースに持ちつつも、しっかり患者さんの状態を常に見ていくことが大事になりますよね。
3.まとめ
今回は、「TKA術後の筋力」についてまとめていきました。
➢TKA術後の筋力低下は起こるのか?
➢どの時期に筋力低下がピークに達し、どの時期に術前より良くなるのか?
➢そもそもなぜ大腿四頭筋の筋力トレーニングが必要なのか?
ここを文献から得られた情報をもとにまとめていきました。
その情報をベースに、
じゃあ術後のリハビリは「大腿四頭筋の筋力トレーニングだけを行っていけばいいのか?」
について考えていきました。
答えは、「そうではなくて、まずは患者さんが抱える問題を解消しながら、大腿四頭筋の筋力トレーニングの必要性は頭に入れて介入していく」と結論付けられました。(自分の中で・・・)
とても大切な情報(文献やセミナー)があると、それ一辺倒になってしまうことも多々あると思います。
大事なことは、「セラピストが良いと思ったことに患者さんを当てはめていく」のではなくて、「患者さんの状態にセラピストが持っている知識・技術をぶつけていく」ことだと思います。
それでは本日はこの辺で終わります。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
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