上殿皮神経(superior cluneal nerve:SCN)は殿部外側に分布する皮神経です。
この上殿皮神経ですが、腰痛との関連性が非常に高く、絞扼されることで多様な症状を呈するといわれています。
腰痛や下肢痛と関連する神経と言えば、”坐骨神経”を一番にイメージしやすいですが、今回紹介するような”皮神経”も腰痛に関与しているということを理解していく必要があります。
腰痛に対する理学療法を進めていく上で”上殿皮神経”は一つのキーワードになってきます。
今回はそういった背景を踏まえて、上殿皮神経に関する一つの文献をピックアップしようと思います。
1.上殿皮神経の解剖学的特徴と臨床症状について
上殿皮神経についての文献を以下に紹介していきます。
今回紹介する文献はこちらです。
【引用文献】
「殿皮神経絞扼が坐骨神経痛様の下肢痛を呈する解剖学的背景」 Journal of Spine Research Vol.7 No.2 2016
研究の概要
上殿皮神経は、殿部外側に分布する皮神経です。
上殿皮神経内側枝の腸骨稜を乗り越える部位での絞扼による腰痛の報告もあり、絞扼部位での神経絞扼を解除する外科的治療が奏効すると報告されています。
これまでの解剖学的研究では上殿皮神経は上位腰神経(L1-L3)に由来するとされてきました。
しかし、相澤らは研究用ご遺体11体の20側の解剖を行い上殿皮神経の最下位分節はL1(1側:5%),L2(3側:15%)L3(13側65%),L4(3側:15%)であったと報告しています。
このことから、絶対的に上殿皮神経はL1-L3に由来するわけではないということが周知されています。
また、上殿皮神経障害は腰痛のみならず坐骨神経痛様の下腿外側に及ぶ関連痛を呈することがあると報告されており、L5障害に類似する症状も呈するわけでありますが、上記の上位腰神経では説明が出来ない状況にあります。
そういった背景を踏まえ、この研究では臨床での絞扼例が多い上殿皮神経内側枝の起始となる神経根を明らかにすることとして進められています。
結果的に、「絞扼されやすい上殿皮神経内側枝の発生神経根は L4,L5が多く,坐骨神経痛様の関連痛を呈する臨床的事実と矛盾しないことが明らかとなった」とまとめられています。
方法
【対象】
●解剖用ご遺体12体(男性体・女性体)
●死亡時平均年齢88歳(81〜101)
●全24側のうち観察し得なかった4側を除外した20側の上殿皮神経が対象
【方法】
■上殿皮神経はすべての枝を展開し、それぞれの神経を中枢側まで追い、腰仙椎の椎間孔入口部まで展開し、神経根の起始を同定
結果
【上殿皮神経の数】
●1本確認されたものが2側
●3本確認されたものが10側
●4本確認されたものが4側
●5本確認されたものが4側
【上殿皮神経の走行様式】
●1本の神経根から枝分かれせず1本の上殿皮神経に分布したもの(標準型)
●複数の神経根から吻合し1本の上殿皮神経となったもの(吻合型)
●1本の神経根から末梢側で複数の上殿皮神経に分岐していたもの(分岐型)
【腸骨稜上で確認できた上殿皮神経】
総数64本で、うち吻合型は3本,分岐型は6本であり、中殿皮神経と殿部外側で吻合を有する内側枝も1本認めた
【上殿皮神経内側枝の起始となる神経根(絞扼されやすい)】
L2から L4に分布したものが1本
L3に分布したものが3本
L4に分布したものが10本
L5に分布したものが6本で、6本のうち1本は由来神経根が複数にわたる分岐型であった
※上殿皮神経内側枝に絞扼が見られたものは2本(10%)であった
※神経内側枝が腸骨稜を乗り越えた位置は上後腸骨棘(PSIS)から平均36.1mm(5.2〜57.7mm)頭側であった
2.まとめ
今回は、上殿皮神経障害による症状はなぜ坐骨神経様症状を呈するのかを理解するために文献を用いてまとめていきました。
教科書的には上殿皮神経の起始となる神経根はL1~L3とされており、坐骨神経症状のような下肢遠位まで症状が響くはずがなく矛盾した結果になっていたようです。
しかし、今回のような研究によりL5からの起始を認めることがわかり、上殿皮神経障害が坐骨神経様の症状を呈することが矛盾しない結果となっています。
このように、臨床症状と教科書で言われている内容に乖離を生じている場合、何を信じていいかわからず、「不明な痛み」もしくは「腰の問題や坐骨神経の問題」などどいった大雑把な解釈しか出来なくなります。
そういった問題を解決する一つのヒントになればと思います。
それでは本日はこの辺で。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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